書評

レビュー⑦:「これからの「正義」の話をしよう」【書評】

「正義とは何か」に関しては、
人によって様々な答えが存在します。

この記事では、
これからの「正義」の話をしよう」をご紹介します。

まさしく答えの無い問いに対して、
様々な例を使ってアプローチをしていきます。

「正義」とは何かという答えのない問いへの探求

NHKの番組である「白熱教室」でも放送された、
マイケル・サンデルの講義をもとにして出版された「これからの「正義」の話をしよう」について紹介させていただきます。

作者であるマイケル・サンデルは1953年生まれであり、ハーバード大学で政治哲学を専門として教授を務めています。
本書はハーバード大学の講義の一つである「JUSTICE(正義)」で取り扱った内容をもとにして書かれたものです。

本書はAmazonの「イギリス・アメリカの思想カテゴリー」でベストセラーを叩き出す(本記事執筆段階)など、大ヒットの1冊です。
私自身、何ら予備知識無く読み始めました。そんな私が率直に感じた印象について書かせていただきます。

身近な例を取り上げた分かりやすい問題提起

本書の特徴として挙げられるのが、一見すると難しいように思える哲学の話に身近な例を踏まえることで、入り込みやすくしている点があると思います。
例えば、本書の背表紙には以下のように書かれています。

「1人を殺せば5人が助かる。あなたはその1人を殺すべきか?」

このように、小難しい哲学の話を並べるのではなく、自分をその場に置き換えて考えやすい話題を含ませて話を展開しているあたりに、マイケル・サンデルの講義が人気を博している理由が垣間見れると思いました。具体的に上記の例がどのような哲学的な葛藤を生むかについては、ぜひ本書を読んでいただきたく思います。
他にも、代理出産や子ども同士のカードトレードなど、想像しやすい題材が存分に含まれています。

本書の前半部分では特にこのような例を取り上げながら、功利主義に始まりカントやロールズ、アリストテレスといった偉大な哲学者たちの思想について述べられています
ここまでは非常に読み進めやすく、理解も容易にすることができるように思います。

そして本書の後半に進むにつれて、最大の論点である「正義とは何か」について話が及んでいきます。

非常に難解な後半部分

先述のように本書は大ヒット商品となっており、ネット記事だけでなくYouTubeなどの動画サイトでオススメの1冊として取り上げている方もよく見ます。しかし改めてそれらを見直すと、ここまで書いてきたように身近な例を挙げて書かれている部分しか紹介されていないことがほとんどのように思いました。

そして私が本書を読んで感じた事は、「深く読めば読むほど難解極まる」ということです。
一つには紹介する際に取り上げやすいのが、容易な部分であるということが挙げられると思います。そして、読者自身が前半部分しか正確に理解できていないのではないかと思いました。私もその一人です。確かに読んでいれば「なるほど」と感じますし、理解できたように思います。

しかし、サンデルの講義の狙い、そして本書の狙いである「正義とは何か」について、理解が深まるかと言えばこれにはかなりの予備知識、そして哲学的思考への慣れが必要であると思います。

宗教、多人種への感覚の乏しさ

当然、ハーバード大学という世界のトップ校の講義がもととなっているために難解なのは間違いありません。
加えて特に本書で顕著な点は、人種問題や宗教に関する思想が多く含まれている点が挙げられます。哲学的な用語が理解しにくい点は、知識をもともと持っている人であったり、勉強して知ることであったりで解決できます。
しかし、かなり哲学と宗教、人種が密接に関わっているように思います。この点に関しては、アメリカにはプロテスタントとカトリックがある、保守派とリベラル派がいるといった表面上の知識では物足りません

日本人が教科書で学ぶ「政教分離」の感覚で彼らは考えていないのです。
オバマ元大統領もイリノイ州の上院議員選挙において「自分の宗教的見解を他人に押しつけることはできない。」と演説したことを後に「私自身の価値観と私自身の信念を導くのに信仰が果たした役割を適切に表していない」と考えています。

つまり、今の自分の思想は多少なりとも信仰の影響を受けており、中立的に行おうと試みたことであっても信仰による思想の影響は反映されると考えているのです。もちろん、この考え方を否定しているアメリカの議員や元大統領もいることは事実です。

この思想を読んだだけでも、私は全くもってサンデルの提示する「正義」の議論には不適応であると思いました。
本書はあまりにも日本で「一般的」と考えられている思想とは大きく異なり、別世界の出来事のようにさえ思いました。

それでも本書が与えてくれる「考える習慣、力」

私の捻くれた性格もあり、ヒット商品について反対意見も書かせていただきました。
しかし率直に感じたことは、哲学書を四苦八苦しながら読むよりもはるかに理解しやすいということです。
そして、先ほどアメリカ人の感覚とは違うから議論に参加できないと述べましたが、「日本人だから出せる意見」があることは確かです。

そもそも思想に関する研究の先進国は海外であり、外国人に知れ渡っている日本人の思想というのはあまりないように思います。
それだけ日本人と思想、哲学というのは馴染みが無いと改めて感じました。
しかし、世界でも日本でも同じような社会問題は起こります。特に先述の代理出産や、本書でも取り上げられている同性婚などについては、今後日本でも議論が活発になることは十分に考えられます。

これらの難しい問題に対して「分からない」で終わることなく、一人一人が信念をもって意見を発信することで、よりよい社会ができるようになると思います。本書ではそんな難解な問題に対する一つの考え方、議論の進め方を提言してくれているように思います。

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