教育関連

レビュー㊺:「シンガポールの教育とメリトクラシーに関する比較社会学的研究」【書評】

この記事では、
世界でも屈指の学力を誇るシンガポールの教育と
日本の教育を比較した1冊をご紹介します。

特に興味深いのが、
教育大国のシンガポールについて「下位校」に着目し、
日本の学校と比較している点にあります。

小国シンガポールが教育で世界有数の国になった理由はどこにあるのでしょうか?

シンガポールの教育とメリトクラシーに関する比較社会学的研究」を読めば、シンガポールが国を挙げて取り組んでいる教育改革と、日本の学校の課題を知ることができます。

シンガポールと日本の「下位校」の比較

教育制度が発達している国では、
もれなく受験がついて回ります。

受験がある以上、
学力面において「勝者」と「敗者」が存在することになります。

特に敗者においては、
「下位校」への進学を余儀なくされ、
学業面において負のレッテル貼りへと繋がることもあります。

この記事では、
教育先進国と言われるシンガポールにおける下位校と、
日本の下位校における比較に関する書籍をご紹介しています。

海外の教育について知ることは、
日本の教育を別の観点から見るいい機会になります。

教育に携わる人にはぜひ読んでいただきたい1冊になります。

シンガポールの教育とメリトクラシーに関する比較社会学的研究

シンガポールにおける早期からの厳しい教育競争

日本は以前より学力社会ではなくなったと言われますが、
それでもセンター試験など国を挙げた試験が存在しています。

それに対してシンガポールの教育システムは、
精密な学力別の進路によって構成されています。

最初の振り分けは小学校5年生の時に行われます。
その後も日本同様に学校種が変わるごとに試験があり、
進学できる学校種が限定されていきます。

日本のような「記念受験」は存在せず、
受験資格が無ければ最初から進学の道は閉ざされます。

加えて、卒業した学校だけでなく、
コースによっても就職先が厳密に決まっていて、
学校に入学した段階で職業まである程度絞られる制度になっています。

これには「マンパワー政策」という政策が大きく関係していると言われています。

「マンパワー政策」とは?

シンガポールは人口も少なく、
面積も小さな国です。

天然資源もないため、
人間が活動することで経済を回すしかありません。

そこで人材の育成が非常に重要な役割を担います。

適材適所で人員を配置して、
才能を無駄なく利用するというのがマンパワー政策の簡単な内容です。

さて、このような政策を取っているシンガポールでは、
「繰り返し試験を課すことで、能力別に職業を振り分ける」
という日本人にとっては残酷な作業が必要です。

このような社会では当然「敗者」が出てきます。
いわゆる「下位校」に進学する生徒は、
日本よりも早い段階で学力競争の敗者の刻印づけがされます

シンガポールと日本の生徒の違い

早い段階から行われる生徒の振り分けは、
生徒のやる気の低下を容易に想像させます。

特に高校段階では、
既に二度三度と学力的な敗北を味わうことになります。

これは日本でも言えることで、
「下位校」というのは地域の人も含め、
社会的に何となく認識されていることがほとんどです。

それにもかかわらず、
なぜか日本とシンガポールの生徒の間には、
勉強への強い意欲や授業に対する好感度、自宅学習時間の差など多くの面で違いがあります。

シンガポールの教育とメリトクラシーに関する比較社会学的研究」では、
実際の「下位校」の生徒と教員への聞き取りを含めた研究を基にして、それぞれの現状と課題を分析しています。

詳しくは本書を読んでいただきたく思いますが、
本の作者は主に以下の点において大きな違いがあると指摘しています。

①生徒の学習意欲の差

②教員の努力₍生徒との関わり₎

③実践的な知識や技術の習得

シンガポールと日本の社会的相違

シンガポールと日本では社会構造が大きく異なります。
例えば中央集権であり学校のほとんどを国立が占めているシンガポールの方が、教育改革を行うことははるかに簡単であると言えます。

また、経済を国がコントロールし、
市場の需要と供給を一括で管理できる国と、
日本のような職業選択の自由を重んじる国とでは作り自体が全く異なります。

国立学校がコースと人員を設定することで、
求められている以上の学生を市場に送り出すことを避けられる仕組みになっています。

これは学問の自由をある程度制限することであって、
日本社会で実施することはほぼ不可能です。

加えて、3kと言われる仕事や単純労働と言われる仕事は、
低学歴の中高年層や外国人労働者が担っている現状があると本書で指摘しています。

日本では外国人労働者を巡る入管法改正案の際に、国会が大いに紛糾しました。

「単純労働に関しては外国人労働者なり移民なりを活用し、
日本人はもっと高度な職に就く」

このような考え方は、職業差別を招く可能性があるかもしれません。
徐々に移行するにしても、
そのプロセスからの移行が遅れた日本人は、
他者に取って代わられても支障の無い仕事をしていると捉えられる可能性があります。

このように、シンガポールの仕組みを日本に導入することは、
国家の仕組みや文化の違いなどの面から難しいことは頭に入れておくことが必要になります。





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まとめ

シンガポールと日本では経済規模も異なりますし、人口数や政治体制も大きく異なります。
シンガポールの教育制度が良くても、
それをそのまま日本に取り入れることは困難です。

一方で、日本における「下位校」には大きな課題があることも事実です。

特に以下のような点で改善が急がれます。

①生徒の学習意欲の低下

②教員の努力

③実践的な知識や技術の習得

これら3つの点は独立するものではなく、
いずれも強く結びついています。

例えば、社会に出てすぐに使えるような知識や技術が身につかなければ、学習意欲はさらに低下していきます。
ここで大切なのが、学力下位の生徒たちは、
教科書のようなアカデミックな内容に抵抗感を抱いているということです。

中学校までの教科書を用いた学習で、
辛い思いをしてきた生徒からやる気を引き出すには、
別のアプローチが必要になるでしょう。

そのためには教員の工夫が必要ですが、
日本の場合は異動の際に、
赴任先の学力が変わることが頻繁にあります。

本来は生徒の特性に合わせた専門性が必要なのに、
異動する度に生徒の学力や生活がガラリと変わるという問題点があります。

教員の教科専門性だけでなく、
学力帯に応じた専門性も必要になってくると思います。

実際にシンガポールでは学力下位校にあたるITEの教員は、異動することなく同じ学校に勤務します。
また最初の6年間は3年間毎に更新制で、
能力や努力が無いと思われれば契約を更新してもらえません。

こういった仕組みづくりは、
日本でも適した形にすることで導入することができるかもしれません。

シンガポールの教育とメリトクラシーに関する比較社会学的研究」ではこのようにシンガポールと日本の「下位校」に着目し、問題点を細かく分析しています。

ぜひ一読いただいて、
日本の教育について考えていただけたら嬉しいです。

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