社会問題

レビュー㉙:「幼児教育の経済学」【書評】

この記事で紹介するのは、
教育を経済学的に考えるという新しい切り口について書かれた本です。

幼児教育の経済学」は経済学者が教育について、
先行研究を基にして取るべき方策について述べた本になっています。

教育を各学校レベルではなくて、
「公的に補助する」にはどうすれば良いのか、
筆者の意見と有識者の意見の戦いがポイントです。

ヘックマン₍作者₎の主張とは?

この本の特徴が第1章として、
作者のノーベル賞受賞者で経済学者の、
ヘックマンの教育についての持論から始まります。

ヘックマンの教育に関する考え方は、
以下のような3つの特徴をもっています。

非認知能力の重視

幼少期の介入の必要性

教育政策の費用対効果

それでは一つずつ詳しく見ていきましょう!

①非認知能力の重視

1つ目の特徴が非認知能力を重視している点が挙げられます。

最初に「認知能力」とは何でしょうか?
認知能力とは、IQテストや学力テストによって測定される
いわゆる学力と言われるものです。

これに対して非認知能力とは、
学力面以外の能力のことを指します。

例えば・・・

肉体的、精神的健康
根気強さ、注意深さ
意欲、自信

このような社会的・情動的な能力が含まれます。
昨今重要視されている、
コミュニケーション能力なんかも当てはまりますね!

ヘックマンは学力面以上に、
これらの非認知能力の向上に重きを置いています。

大切なのは、
ヘックマンがなぜ非認知能力に着目しているかですよね!

非認知能力の発達と家庭環境

その理由は、研究の結果から、
家庭環境と子供の非認知能力の発達には、
相関関係があることが分かっているからです。

家庭環境が悪い状態には、
貧困や虐待、ネグレクトなどが挙げられます。

このような経験を幼少期にすると、
どのような影響が出るのでしょうか?

ドラッグ使用の増加

肥満,喫煙率の増加

脳のサイズの縮小

上記のように、様々な点でデメリットが生じます。
しかも注意すべき点が、
成人後まで幼少期の経験が影響を及ぼしていることです。

加えて、犯罪率の増加や大学進学率が低いことなど、
社会生活面に大きな影響を与えることが分かっています。

虐待の影響に関する書籍は以下の記事でも紹介していますので、
詳しく知りたい方はご覧ください!

このような理由から、
ヘックマンは非認知能力の発達に着目して、
家庭環境を改善させるために効果的な方法を提案しています。




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②幼少期の介入の重要性

ここまで見てきたように、
幼少期に何かしらの手立てをすることが、
成人後まで影響を与えうるということが分かります。

問題はどのタイミングで支援を実施するかです。
ヘックマンは小学校入学時では遅いとしています。

というのも先行研究から小学校入学時には既に、
認知的な面で明確な開きが見られることが明らかになっています。

認知能力面に加えて非認知能力についても、
先ほど挙げたような影響が見られます。

幼少期に介入した先行研究

統計的な分析に加えて、
実際にアメリカで行われた研究が幼少時の介入の重要性を示しています。

実験の詳細は本書をお読みいただきたいですが、
幼少期に介入を受けた結果、
40歳時の逮捕率の低下があり、
収入も多い傾向が見られました。

③教育政策の費用対効果

早期の段階で何かしら手を打つことが、
長い家で見て有意義であることが示唆されています。

それではどうして、
大規模な支援政策が取られないのでしょうか?

この点に対するヘックマンの考えがまさしく経済学者であって、
教育分野オンリーの専門家とは異なると思いました!

再分配ではなく事前分配を

経済政策の上で再分配という考え方は、
一般的に取られる考え方だと思います。

裕福な人から多くのお金を税金などで徴収し、
お金に不自由している人に分配するというのが、
不公平を改善するために効果的だという再分配です。

ヘックマンは再分配の効果については認めていますが、
それでは長い目で見て、
社会的な包容力は向上しないとしています。

「どうして稼いだお金が仕事の無い人に行くのか」
「自分たちのおかげで暮らせている」
「お金持ちは私たちを見下している」

などなど社会的な分断につながりやすい状態になり、
社会が共に支え合う構造に繋がりにくくなります。

これに対して、
幼少期に資源を投入することを「事前分配」と考え、
恵まれない子供を救うために必要と筆者は考えています。

事前分配は経済的な効果が高く、
社会的な包容力も高まるとしています。

というのも例えば、
犯罪者更生プログラムなどの成人向けプログラムは、
費用に対して経済的な効果が少ない傾向があります。

一旦社会的にハンディを背負ってしまうと、
その後社会に復帰するのが容易でないことを考えれば納得できるかと思います。

これに対して幼少期の困難を改善するための方策では、
お金がかかっても将来的に収入が増えれば税収も増えるし、
健康であれば医療費も使わずに済みます。

そして社会的にも非常に理解が得られやすいことが考えられます。
このことによって、
社会的包容力が増加することも期待できます。

明確な差が生まれる前に手を尽くす必要があるということが、
とにかく大切であることをヘックマンは主張しています。




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ヘックマンの主張の課題

幼児教育の経済学」の特徴の一つが、
第2章にヘックマンの主張に対する有識者の意見が載っているところです。

文化的価値観の尊重の課題

特定の課題に対する介入には必ず、
「誰を対象にするのか」という課題が存在します。

もし経済面だけを課題にするのであれば、
所得制限を設けることによって補助することが容易になります。

しかし所得面のみを参考にしたこのやり方は、
再分配の方法であるため社会の分断を招く危険があります。

一方で子供の養育環境に着目すると、
「欠如モデルを生み出す」という批判にさらされます。

この点をウィスコンシン大学のハリー・ブリグハウスは、
本書で以下のように指摘しています。

幼児をめぐる政策は学校教育政策以上に、
恵まれない人々の文化的脆弱性についての不安の引き金をひく。
改革派は貧困の「欠如モデル」を想定して、
恵まれない人々の知的能力や考え方や行動に問題を見出そうとしていると非難される。

特定の環境を良しとして、ある環境を悪とする
という価値観を押し付けているという反対意見が起こることを示唆しています。

例えば

シングルマザー・ファザー

ハーフ,外国籍

保護者が障害を持っている

などを対象に入れるかどうなのかという意見が考えられます。
これが就学後であれば学校生活を見て決められますが、
就学前の幼児教育時点に対する方策である場合はそうはいきません。

無条件に上記のような家庭をサポート対象にした場合、
障害をもった親が子供を産むと不幸にするのか
片親家庭は不幸な家庭なのか
という意見が噴出しかねません。

この難点に対して先ほどのブリグハウスは、
ある意見を提唱しています。

貧困層や労働者階級の子供に社会一般に通用しやすい行動を教えようと訴える改革者たちは、
じつは白人中流階級の価値観を教え込んでいるのだ。

いわゆる「上に立つもの」が「下のもの」に対して指導するという、
縦の関係性に陥ると危惧しているいます。

これは現在の日本でも例外ではありません。
日本でも経済的な格差は大きく、
明確な地位こそは無いまでも、「過ごしやすさ」という点において違いがあると思われます。

支配的な構造を作ることなく適切な施策を講じることで、
社会的な不利を被ることが無いようにするために心を砕く必要がありそうです。




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お金が幸せの基準なのか

そもそも人生は何をもって幸せとするのか
この考え方も幼児教育を導入する上で課題になる問題です。

先ほど挙げた課題とも関わりますが、
収入や学業といった面で不利になる家庭がサポートの対象となることが一般的です。

例えば、コミュニケーション能力は重要な要素ではないのか。
家族への愛情は大切ではないのか。

このような数字では表せないものが評価されず、
金銭的な問題や学力的な問題によって違いが生じていいのかどうか。

少なくとも金銭面では日本における統計でも、
親の貧困と子供の貧困の関連性は明確になっています。

本書内では大竹文雄・小原美紀の「貧困率と所得・金融資産格差」を参考に、日本の貧困状態を以下のように分析しています。

二〇〇〇年代になって、貧困率が一番高い年齢層は、
五歳未満の子供たちであることが明らかにされた。
₍中略₎
子供の貧困率の上昇の背景には、
その親の世代にあたる二十~三十代の貧困率が上昇していることがある。

₍中略₎
ひとり親家庭の貧困率は、五十%を超えている。

この現状を改善するために親世代に補助を拡大するのか、
子供世代に拡大するのかは包容力の観点を含めて考えなくてはいけない問題であることは確かです!

価値観の問題と現実の貧困の問題の関わりを、
うまく処理することが求められていると言えそうです。

教育政策と経済性の融合が継続性に繋がる

子供への投資と利益性という問題は分けて考えてしまいがちです。
教育をビジネスとすることは特に抵抗があります。

学習塾などの学力面へのサービスはともかく、
社会性面を発達させるための民間のサービスはほとんどありません。

明確に改善されていることが数字上で分かるものに対してでないと、
価値を見出しにくく企業も参戦しづらい部分があると思います。
それでも継続して何かしらの支援をするためには、
利益面でも考えていかないといけません。

大きな規模での支援策は国の財政状況を考えても、現実的ではありません。

投資していくためには投資対象を選択し、
集中的に資源を使う必要があります。

そのためには経済的な指標を活用して、
利益率の高い段階を見つける必要があります。

ヘックマンはそれが幼児教育段階であり、
貧困の家庭に事前分配することで大きな経済的見返りが見込めるとしています。

良い政策を長く続けるために、
様々な分野の知識を教育に活用することが大切だと言えそうです!

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