教育関連

書評㉕:「自由と規律—イギリスの学校生活—」

バスケの八村塁選手や陸上のハキーム選手のように、
海外の大学を卒業する日本人は少しずつ増えています。

それでも語学の問題等から大学進学時に即海外というのは、
まだまだ日本人にとっては馴染みのないものかもしれません・・・。

そんななか、海外の大学を今から数十年も前に卒業したという、
「池田潔」が書いた「自由と規律―イギリスの学校生活」という本があります!

池田氏はリース校という、
イギリスのパブリックスクールを卒業しています。

パブリックスクールとは名前と違い私立の学校です。
私立のため学費も高く、
現地の学生でも限られた階級に属する人しか通うことができない学校です。

そんなパブリックスクールを卒業した著者が書いた、
貴重な海外の学校生活についての1冊をご紹介させていただきます!

国民性の違い=教育理念の違い

外国のイメージとしてある程度共通した、
国民性に対するイメージ・考えを抱いているところがあります。

それが正しいとは限りませんが、
それでもイメージがある以上は何らかの根拠があると思います。

イギリスのイメージとしては、
紳士」という言葉が浮かぶ人も多いのではないでしょうか?

日本人は「勤勉」、「親切」などのイメージを持たれていることが多いですよね。
イギリス人と日本人は何となく、
どちらも似たようなイメージと言えるかもしれません。

島国という共通点もありますし、
イギリスの議会制度を参考にしていますしね!

教育も例外ではありません。
教育制度には国の考えが反映されますから、
目指すところが似ていれば、制度も教育的思想も似てきます。

勉強よりも働け!!

今でこそ学問が役に立つものであるという考え方が一般的になってきましたが、当然昔からそうであったわけではありません!

これは日本に限らず、イギリスでも同じだったようで、
奨学金制度と絡めて以下のように記されています。

よく発達した奨学金制度が活用されており、
この便利がなければ、この国の父兄は実利的な見地から子弟に高等教育を授けることを躊躇する場合が多いであろう。
貴重な時間と金銭とを空疎な学問などに費消するよりも、早く社会に出て実務を身につける方が、結局、父兄子弟双方の利益だという考えである。

この考え方は典型的だと思います。
学問が将来的な金銭に結びつかなければ、
それは無益なものであると考えられます。

日本でも「女性に教育は要らない」といった考えが蔓延していました。
イギリスのパブリックスクールも男子校しかありませんから、
この点についても同じような経験をたどっていると言えそうです。




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芸術的能力の価値

本書で取り上げられている問題は、
現代でも同様のことが言える場合が少なくありません。
この点は本書の特に優れた点であると言えます。

特に芸術に関する能力の軽視という問題は、
現在の教育でも考える必要のあるところです。

主要科目はもちろんですが、運動能力に関しても、
他者より秀でているととりわけ高い称賛をうけることになります。

それに対して、美術や音楽はどうでしょうか?
「絵はうまい」、「楽器は弾けるし歌も優れている」
こういった子はたくさん存在しています。

それなのに、一日中ピアノに向かっていたり、
ノートに絵をかいていたりすると
「たまには外で遊びなさい」「勉強にもそれくらい取り組んでくれれば・・・」
といった批判や嫌味を受けることがあります。

芸術的傾向をもった一部に対し、他の大部の学生が全く理解と同情を持たない点にある。
この無智と無関心によって醸し出される全体の雰囲気が、少数者のもつ芸術精進の意欲を冷却させる

この指摘は、著者がいかに優れた洞察力をもっていたのかを示すものと思います。
現在では当たり前の指摘でも、
当時は特に心身の発達に傾倒していましたから
このような考えに至るのは容易ではありません。

芸術に関する能力が「見える化」しづらいこともあります。
絶対的な価値観が無い分野でもあるため、
「好きなことばかりじゃなくて少しは苦労しろ!」
そういった考えもあるのかもしれませんね。

このような受け取る側の難しさはあるにしても、
他者の関心を妨げるようなことが今でも続いていると思うと、
価値観の進歩は技術の進歩よりもはるかに遅れていると言えそうです。




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ディベートの訓練

日本でもイギリスでも、
何十年も前から似たような教育的な課題を抱えているようです。

一方で、日本が見習うべきイギリスの教育もあるように思いました。
それが、ディベートに関する教育です。
日本の学生は自分の考えを伝えるのが苦手と考えられています。
そのために様々な工夫もされていますが、
まだまだはっきりと自己表現することが苦手な生徒も多くいます。

イギリスのパブリックスクール₍少なくとも作者の通った時点₎では、
討論の時間が授業とは別に設けられています。
しかも、この討論会は主張の是非で優劣が決まるのではなく、
討論の技術で評価されるというところにあります。

ですので例えば・・・
「当議会は、地球を円形とする仮説を否定する」
という動議が可決されることもあるようです₍笑₎

ここまで行くとユーモアが強すぎて日本では受け入れられないかもしれませんが、
このような「事実は別として」議論を行うことは有効かもしれません。

日本の教育ではどうしても曖昧なお題が取り扱われます。
それは、賛成反対両方の意見を出しやすくするためには妥当だと言えます。

他方では曖昧なお題だと、
相手を言い負かそうと躍起になりやすくなります。
これが教室内で起こってしまうと、
本来は意見も違いも受け入れてほしいのですが・・・
休み時間やその後の人間関係に響く可能性があります。

こうなってくると無難な意見に終始してしまいます。
そして一部の人だけが意見をぶつけ合う構図が出来上がるのです。

明らかに正解があるお題であれば、
相手の論法を使ってみたり、ユーモアを入れながら話を展開したりできます。

勢いで相手を押し切って賛否を決めるのではなく、
イギリスのような議論の流れを重視する評価のシステムは、
日本における討論の授業でも活用できるのではないでしょうか?

世界の教育を知ることの意義

本書は1900年台の初期に著者が経験した、
学生生活について書かれていますが現在でも通じるところがたくさんあります。

海外の教育について知る機会は、現在でもなかなかありません。
論文を集めたものではなく、
実際に著者が過ごした経験を基に書かれた貴重な1冊だと言えると思います。

海外の教育を知ることで、
日本の教育少し引いた位置から考えることができるようになります!

それは優劣をつけるという意味ではなく、
様々な見方をすることで自分が重視したいものは何か、
改善するために必要なものは何かということが見えてくるようになると思います!!

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書評⑲:「パブリック・スクール」
→イギリス社会におけるパブリックスクールの立ち位置について考察している1冊です!
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